亡国のクルティザンヌ (製品版)
*この感想は [さたける]さんに書いて頂きました。
激動の19世紀フランスを舞台にした高級娼婦の物語
高級娼婦と聞くと富と(権力を持つ男を操る)影響力を存分に発揮しつつも、娼婦の身分による差別の苦難を描いた映画「娼婦ベロニカ」を思い出します。また、高級娼婦の愛憎劇がエンターテイメント性に優れているのか「椿姫」や「わたしの可愛い人—シェリ」など名作映画が生まれています。
本作は19世紀ナポレオン3世が帝政を敷いた時代のフランスを舞台にした架空の高級娼婦2人(女装男子、少女)の復讐を描いたノベルゲームです。テーマは復讐で相手はナポレオン3世とその一味。この頃のフランスはナポレオン1世による帝制、その後の共和制への移行、産業革命と市民の力の上昇など、現在の共和制を作り上げた激動の時代となっています。力を持つ市民が台頭する一方、貧困も増え路上には浮浪者が蔓延っています。
この時代の風習や文化、貧困な市民の様子などからはじまり、政争、新聞の影響、高級娼婦の政治的役割など綿密に調査したであろう事が伺える情景描写で当時のフランスの雰囲気を味わいつつ、高級娼婦である2人の主人公の物語を楽しむ事ができます。主人公2人は架空の人物ですが、主要人物のほとんどが史実に存在する人物で占められているのも特徴で、歴史好きの琴線に触れる作品です。
作者さんの過去作を見ると現代アメリカや19世紀フランスを舞台にしたノベルゲームを多数リリースされており、その豊富な知識も納得の出来。また、宗教観など日本人だと見落としやすい事まで、欧米の価値観で描いています。また、立ち絵も現実の写真等から参考にして作られて現実感があります。
そして、類稀な執筆力。同人ゲームでこの文章力は珍しく、圧倒的な単語量や語尾の言い回し、独特の韻などで物語が自然と頭の中に浮かぶだけでなく、文字を楽しませる能力に富んだ文章です。同人で、ここまでの文才を感じたゲームはフリゲ「クトゥルフの弔詞」や同人ゲーム「ファタモルガーナの館」ぐらいです。読み応えばっちり。
ネトリながら、ネトラレ男から恨まれないバイセクシャルの女装男子
さて、主人公は男である事を隠して高級娼婦として、政界に近づきつつある少年(女装男子)。彼の両親はとある事変で命を奪われ、復讐のために関係者に近づきます。まず、女としてターゲットである貴族に近づき篭絡、その後貴族の妻子もターゲットとして接触、快楽の虜にします。妻へは男として近づき、夫が見ていない間に身体を虜にした後、夫の前で激しく抱く……など序盤はネトリ展開が続きます。この時はたいてい視点が相手貴族に移っているのでネトラレかな。この時も優れた文章力が健在で、エロシーンも一種の芸術と化しています。
そして、接触した貴族は例外なく破産・破滅してしまい、それでも主人公を憎む事ができない……そんな状態に陥ります。そして主人公は貴族を渡り歩きながら、自宅ではサロンを開いて社交界に進出し、ナポレオンに近づいていきます。
対してもう一人の主人公である少女は家族に捨てられ路上生活を与儀なくされます。懸命に生き抜こうとするも周りは無視して飢餓状態に。その中で偶然、男主人公に拾われ命を救われます。
そして、男主人公も彼女の前でだけは男である事を公開し、飾らずに交流を深め、似た境遇である2人はだんだんと依存しあっていきます。そんな中、男主人公の企みに築いた敵対勢力の攻勢が……。
絶望した少女は魅惑的な女性に!主人公達にプラトニックな愛は存在するのか
高級娼婦の武器は剣でも槍でも無く、その肉体を使った姦計や謀略です。つまり政治家の扇動をしているわけです。歴史を調べれば、2人がどのように唆かせたのか、復讐は成功するのかなどの予測も可能です。また、歴史で不十分な動機や真相などのヒントも物語中に含ませており、あくまで歴史サスペンスである一方、推理小説のように先の展開を予想する楽しみがあります。また、主人公達は歴史の影という扱いなので、それでも先の読めない展開でハラハラ。
さて、主人公2人の関係は似た境遇である1点、ただそれでも両主人公共に誰にも話さなかったお互いの過去を話、癒しの存在になっていきます。少女は女装男子から保護される存在である事は変わりませんが、それでもプラトニック(性的関係のない)な逢瀬を重ねていきます。それは逃避行でもあり、命懸けでもあり。本作の1つのテーマは男女を越えた「愛」とは何か?だと思います。
2部構成で2部は1部の2年後。1部はどちらかと言えば当時のフランスの市民生活や一般貴族の生活に焦点が当てられたのに対し、2部は主人公が積極的に政治介入し歴史物語としての見応えも増してきます。少女もやがて男主人公と同じように高級娼婦の道を歩むのですが、身体は他の男女に許しそれでも心は男主人公にある状態です。そんな中、男主人公の事だけを考え自身の破滅と復讐に進む様は狂気的な愛情を感じます。
エンディングも含めて一貫して世界が2人を中心に動いているように錯覚するような感覚に陥ります。エンディングはニトロプラスゲームのノーマルエンドに近い内容。つまり世間的に見るとバッドエンドだけど本人達にとってはハッピーエンドかな?と感じるようなブラックな内容です。
二人の生き様は美しくもあり、破滅的でもあります。
エロは、主人公2人の絡みは無く、それが今作のテーマにもなっています。基本的には高級娼婦としてお客様を満足させるためのエッチ。女装男子の場合は男相手には(シーンは省略されてますが)女として、女相手には男として満足させます。少女の場合は成長してから客を取るのですが、男性とのエッチ以外に熟女×少女という変わったシチュも。また、注意点としては男主人公×男多数(輪姦)が1シーンだけあります。
客視点となり身体よりも心のつながりを求め、それでも快楽に翻弄されるような描写が目立ちます。男性向きシチュ+ハーレクインなエロで女性向き官能小説のような雰囲気です。そして、エロでも圧倒的な文章力は健在。私の場合、抜きの実用度こそ低いものの、エロが物語の魅力をさらに引き出していました。
クリアまでおよそ4時間。選択肢無しの1本道です。基本CG11枚、回想6種。正直、文章力と時代考察力で度肝を抜いた作品で、作者別作品もプレイしたいなと思わせる出来でした。
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